私の勤務先には、元弁護士がいます。
なぜ、元弁護士かといいますと、弁護士を名乗るには、各地域の弁護士会に登録し、会費を払う必要があります。
しかしながら、その会費がびっくりするほど高く、給料の中から捻出することが難しいため、現在会費を払っておらず、弁護士を名乗ることができないとのこと。
以前は会社がその会費を負担していたものの、会社の方針変更により、会社負担制度が終了してしまったようです。
「会費って、いくらくらい?」と聞くと「毎年60万円!」。
節税サラリーマンの勤務先の給与水準はまずまずですが、毎年60万はちょっと払えないですね。
また、最近は稼げない弁護士も増えていて、法務担当として企業に勤めることは弁護士の成功モデルのひとつ(ローリスク、ミドルリターン)だそうです。
ちょっと面白そうだったので、ブログネタ調査目的で飲みに行き、弁護士のお財布事情に関して話を聞いてきました。
目次
弁護士になるには?
①司法試験の受験資格を得る
大きく2つのルートがあります。
・法科大学院(ロースクール)を修了すること
・司法試験の予備試験に合格すること
②司法試験に合格する
司法試験は最難関の試験と言われており、必要な勉強量(8,000時間ともいわれていますね。)もさることながら、合格を狙っている競争相手も粒ぞろいのため、非常に難しい試験となります。
①を経て受験資格を得てから、最初の4月1日から5年を経過するまでの期間に、3回の範囲内でしか受験できないという制限がありますので注意が必要です。
③司法修習を終える
司法修習の最後には、司法修習生考試(いわゆる二回試験)があります。司法修習の最後の関門であり、卒業試験のようなものです。
一日一科目で5日間にわたって行われる試験で、試験時間は1時間の休憩を含み7時間30分と長丁場なうえ、毎日A4用紙30枚~50枚分をただひたすらに筆記するという、気の遠くなるような試験です。
合格率は概ね9割超とのことですが、司法試験を通った選りすぐりから、1割弱が不合格というのもすごい話ではあります。
④弁護士登録をする
司法修習生考試(二回試験)の合格発表の2日後が弁護士の一斉登録日となっており、試験に合格した人の多くはこの日から働き始めます。
司法試験の受験資格を得るまでにかかる費用
法科大学院(ロースクール)
法科大学院(ロースクール)は法曹(弁護士、検察官、裁判官)養成に特化した教育を行います。たいていの法科大学院(ロースクール)では2つのコースが用意されております。
中央大学を例に見ていきます。
学費が高額な分、各種奨学金も用意されているようです。奨学金が成績優秀者中心に割り当たることは仕方のないことでしょう。
また、なるべく多くの学習時間を確保するため、大学から徒歩圏内に居住することも一般的なようで、その住居費も必要になりますね。
法学未修者コース(在学期間3年)
過去法律を学んだことがない方向けに用意されたコースで、法律の基本から司法試験合格レベルまで幅広く学ぶことが出来ます。
後の項目で触れますが、法曹を目指す人は、大学入学から司法試験合格を目標に努力し続けます。
こちらのコースから司法試験に合格するには、その4年間分の努力に1年で追い付く必要があり、そのため未修者からの司法試験合格は難易度が高くなっております。
こちらで詳細確認できます。
平成29年司法試験結果 合格率順(合格者/受験者)9月12日発表(一橋大学法科大学院調べ)
このことを勘案したかは不明ですが、中央大学を例に挙げれば「未修者:1」に対して、「既修者:3」の割合で入学者募集しております。
また、卒業までに必要な学費は、
・入学金:300,000円
・在学料:4,200,000円(1年当たり1,400,000円)
・施設整備費:900,000円(1年当たり300,000円)
となっており、留年なく卒業できた場合、法科大学院に払う費用だけで5,400,000円必要になります。
法学既修者コース(在学期間2年)
主に大学で法律を学んだ(学部卒)を対象としたコースですが、こちらのコースへ進むには、法科大学院(ロースクール)が課す試験に合格する必要があります。試験に合格することが出来れば、大学で法律を学んだ経験は問いません。
・入学金:300,000円
・在学料:2,800,000円(1年当たり1,400,000円)
・施設整備費:600,000円(1年当たり300,000円)
となっており、留年なく卒業できた場合、法科大学院に払う費用だけで3,700,000円必要になります。
司法試験の予備試験に合格すること
受験手数料は17,500円です。
予備試験は3段階の試験となります。
・短答式試験
・論文式試験
・口述試験
予備試験からの合格を目指す場合、非常に優秀な方が大学在学中に合格し、いち早く司法試験受験資格を得る場合が多いと思います。
また。社会人が司法試験を目指す場合も、法科大学院に通う時間を確保できないため、予備試験経由が多くなると思います。
短答式試験
受験者数:11,000人から13,000人程度
合格者率:19%~23%
上記にて、予備試験から司法試験合格を狙う方は大学在学中と書きましたが、それにはもちろん理由があります。
短答式試験では、270点満点中、60点は一般教養科目が出題されます。その難易度は大学入試センター試験(2020年まで実施)と同等レベルです。物理、数学も普通に出題されるようで、3科目受験で私大法学部へ進んだ方には、かなりつらい出題傾向になります。
しかしながら、法律問題が210点出題されますので、この中で8割正解できれば合格となります。出題傾向も大きな変化がないため、過去問対策が重要です。
トップクラスの国立大学に合格するためには、大学入試センター試験(2020年まで実施)で5教科受験しています。※東大の後期試験など例外あり
そのため、法律的な知識が不足していても、一般教養科目で得点がかさ上げされ、合格する可能性が高まります。
論文式試験
受験者数:1,900人から2,300人程度
合格者率:18%~20%
論文式の合格者は2割弱となかなかの激戦です。ここで必要になるのは、問われている内容を正確に理解し、正しく論述することと、紙に字を書く練習量だと思います。
実際に手を動かす学習は、時間とスペース確保が必要で、移動の隙間時間の活用も難しいです。このあたりが合否を分けるポイントでしょうか。
社会人が論文試験の対策を行うには、早めに出勤して、会社近くの喫茶店など、朝活する必要があるかもしれません。
口述試験
受験者数:370人から430人程度
合格者率:90%~95%
90%以上の合格率となると、大きなミスをした方だけが不合格になります。3つの試験を経た結果の最終合格率は、3%後半に落ち着きます。
こちら参照しました。
司法試験にかかる費用
28,000円です。
試験地が下記の7都市に限られ、5日のうち4日間の試験ですので、遠隔地にお住まいの方は、交通費、宿泊費が別に必要になります。
試験地:札幌市,仙台市,東京都,名古屋市,大阪市,広島市,福岡市(計7都市)
司法修習にかかる費用
●スケジュール
まずは、司法試験合格から、司法修習完了までのスケジュールを確認いたします。
5月 司法試験受験
9月 司法試験合格発表
11月 全国各地で司法修習開始
(初めの8ヶ月は、裁判所、検察庁、弁護士事務所へ通い、民事裁判、刑事裁判、検察、弁護の修習を2ヶ月ずつ行います)
翌年7月 約半数ずつのA班、B班に分けられる。
A班
約半数のA班は、埼玉県和光市の司法研修所で修習を受けます。司法研修所の寮は600名弱程度しかないため、抽選に外れると、アパートを借りて住む必要がある。
平成29年度の司法試験合格者は1,543人(※)ですので、仮に1,500人が司法修習を受けると仮定すると、約150人超は寮に入れない計算になります。
B班
約半数のB班は、全国各地で修習生毎にカリキュラムを選択する、選択型修習を受けます。
同9月 A班とB班を交代
同11月 司法修習生考試
同12月 司法修習生考試の合格発表
※の引用元
司法修習生とは?
司法修習生とは、司法試験に合格した後、裁判官、検察官、弁護士になる前に修習を受けている人のことです。
その立場は、最高裁に採用され、修習に専念する義務(兼業禁止、海外旅行の制限や政治的なメッセージの発信の禁止など)を課せられます。
このうち、兼業禁止は、司法修習生が勉強に専念するために、夜間や休日といった時間にアルバイトをしてはいけないことを意味します。サラリーマンの副業禁止のようですね。
上記にスケジュールを書きましたが、修習場所は全国各地に散っており、県庁所在地に加え、釧路、函館、立川加えた中から、1ヶ所を最高裁から指定されます。修習場所の希望を出すことは出来ますが、全員の希望がかなえられるわけではなく、縁もゆかりもない地域を指定されることもあります。
司法修習にかかるお金
司法修習を受けるにあたり、国に払う費用はありません。
また、以前は国から毎月約20万円給費されていましたが、2011年財政負担軽減などを理由に給費制は廃止、代替策として無利子で毎月18万円~28万円の貸し付けを受けられる制度(貸与制)が出来ました。
この貸与制への移行により、法曹への道を断念した方たちも少なからずいるようです。
2017年より給費制の復活が決まりました。内訳は、月額135,000円の基本給付、住居を賃借する場合は月額35,000円の「住居給付金」、引っ越しには「移転給付金」が支給されることが決まりました。
後段でご説明しますが、司法修習にはかなりのお金が必要になりますので、給費制の復活は喜ばしいことだと思います。
しかしながら、2011年から2016年の貸与制で、司法修習を受けざるを得なかった人たちはかわいそうですね。
配属地域、寮に入れるか、否かによる不平等
上記の通り、最高裁の指定ひとつで、希望しない地域で修習を受ける必要があり、また、司法研修所の寮に入れるか否かで不平等が生まれます。
※2017年の給費生の復活により、その不平等感は多少軽減されます。
本項目記述では、下記資料参照、引用しました
①住居費
かかる金額はケーズバイケースですが、住居費負担ありの場合、毎月215,800円、住居費負担なしの場合、毎月138,000円、が必要とのアンケート結果があります。
②交通費
就職活動では、自身が就職したい勤務先へ訪問、面接を受けることになりますが、司法修習を受けている場所が遠方だった場合、その地域から面接場所までの交通費、宿泊費は当然自腹になります。
また、修習初期の8か月間は、修習場所が2か月毎変わることになりますので、そこまでの移動手段の交通費もバカにはできません。
学生の就職活動に伴う交通費負担軽減のため、東京、大阪へ毎日深夜バスを運行している地方大学もあるくらいです。
弁護士登録に必要な費用
法曹資格は一旦取得すれば、基本的には生涯有効です。まれに自己破産、禁固刑以上を受けた場合に資格停止処分となりますが、一定期間経過後復活となります。
また、司法試験に合格すれば法曹資格取得と勘違いしがちですが、司法修習を終えてから法曹資格取得となる点はご注意が必要です。
各弁護士会の入会金や年会費の詳細は下記PDFでご覧頂けます。
(2010年6月現在、法務省HPのデータです。)
入会金
平均的には10万円前後ですが、近畿圏はやたらと高いですね。最も高額なのが奈良県の63万円です。
年会費
首都圏では大体60万円前後ですが、全国的に見るとそれでも安い部類になります。
最も安価:498,000円(愛知県)
最も高額:1,178,400円(山口県岩国支部)
それに続くのは、1,166,400円(山口県山口支部)です。
山口県では登録されている弁護士が少なく、事務所運営費を割賦した場合、結果的に高くなってしまうのでしょうか?
また、大規模な化学メーカが多いこともあり、公害訴訟等で弁護士の懐が潤った地域なのかもしれませんね。
まとめ
いかがだったでしょうか?
弁護士の会費の話を聞くつもりが、司法修習生の運、不運の話が面白く、そちら中心に書かせていただきました。
無給で全国各地に飛ばされるのは少々気の毒な気がしますが、給費制の復活により、金銭的理由で断念せざるを得なかった方々が、司法修習へ進める環境になることを希望いたします。